國貞克則

マネジメントとは決して管理することだけではありません。英語のmanageが本来意味するところは「管理」ではありません。manageは通常の会話の中で次のように使われます。例えば、私が海外に商談に行って、初めてのお客さんとの商談がうまく終わったとしましょう。時計を見れば夕方の6時ごろでした。お客さんが「この街は初めてですか。なんならこれから街をご案内しましょうか」と提案してくださったとします。しかし常識人なら、初めてお会いしたお客さんにそこまで面倒はかけたくないと思うのが普通でしょう。そんなとき、“I can manage by myself.”(「私自身で何とかできると思いますので」)と言います。つまり、“manage”という言葉の本来的な意味は「どうにかこうにか何とかする」ということなのです。 ですから、マネジメントは管理ではなく、前例もなく良いか悪いかの判断もつきかねるような問題を、どうにかこうにか何とかしていく仕事だといえます。実際、仕事の現場でマネジャーに上がってくる問題は、部下が解決できない、それも右を選んでも左を選んでもどちらも同じくらいにメリットとデメリットがあることばかりです。 また、マネジャーが多くの時間を費やさなければならない人間に関する問題は、それぞれにすべてが背景も当事者も異なりますから、絶対的に正しい解などない複雑でややこしい問題ばかりです。 英英辞典で“manage”を引くと“do something difficult”とか“deal with problems”という意味が最初に出てきます。こういう意味合いを持つ言葉だからこそ“manage”という言葉が人の上に立つ人の役割としての言葉として使われてきたのでしょう。 ドラッカー著作のほとんどを翻訳してきた上田惇生氏の講演で、私は「なぜ“management”という言葉が日本では『管理』と訳されているのでしょうか」と質問したことがあります。上田氏の答えは「私は自分の翻訳の中で“manage”という言葉を『管理』と訳したことは一度もない。“management”という言葉に対応する適切な言葉は漢語にも大和言葉にもないのです」というものでした。そろそろ私たちも、“management”とは「管理」ではなく、「どうにかこうにか何とかしていくこと」だと、認識を改めるべきではないでしょうか。